perfect king *and* clown to deceive
パチン…
「君は…笑顔が好きなのかい…?」
将棋の駒が置かれる音だけが広い空間に反響する
向かい合い将棋を指すのは、秀麗な顔立ちをした二人の青年…
赤髪の方の青年が、色素の薄い髪を揺らし、次の手を考える青年に問いかける
「…その質問は…どう受け取ればいいのかな…?
____『赤司君』。」
『赤司』と呼ばれた赤髪の青年は軽く目を伏せ微笑んだ。
「いや…個人的な興味だ…」
赤司はそう呟く。
色素の薄い髪をした青年が猫目の上の眉をひょいっとあげた。
「へぇ…珍しいね。君のような高貴な人が、僕みたいな庶民に興味を寄せるなんて…。」
くくっと小馬鹿にしたように口角をあげる。
その態度に少しムっとする赤司。
「なんだい…?この僕を馬鹿にしているのか?
____『鹿野修哉』。」
パチンッ
『鹿野修哉』とよばれた色素の薄い髪をした青年は、盤上に駒をうち、首を横に振った。
「いやいやまさか~!僕はよく胡散臭いといわれるけれど、別に馬鹿にしてるわけではないんだ。」
そういいつつも、片方の口角をあげ、胡散臭い笑みを浮かべる鹿野。
赤司はやれやれと言ったようにため息をつく。
「で…僕の質問の答えは?まさかはぐらかそうとしているのではないだろうね。だとしたら…
刺すよ?」
邪眼を鹿野にむける赤司。
それと同時に強く盤上に駒を叩きつける
途端に今まで置いてきた駒が軽く飛ぶ。
しかし鹿野はたいして驚いた様子もなく、苦笑しながら駒の位置を直していった。
「ごめんごめん。別にはぐらかそうと思ったわけじゃないよ~。だからそんなに怒らないで?」
にこりと今度は屈託のない笑みを浮かべる。
「なら、答えてくれ。」
赤司は頬杖をついた。
鹿野はふぅ…と一呼吸おき、にやりと笑った。
「んー…そうだねぇ。好きか嫌いかと聞かれたら好きだよ?人の笑っている顔を見て嫌になる人はそうそういないだろうしね。でも僕は、別に笑顔が好きだから常に笑顔でいるわけじゃないんだよ。」
「なら、どうしてそんなにいつも笑みを浮かべているんだい?」
「…それは…おしえられないなぁ…」
「…何故だい?」
鹿野はパチンと駒を置き、唇の前に人差し指を翳して微笑んだ。
「ヒントを与えるよ。
僕が『いつも笑顔でいる』事と、『その理由を教えられない』事は、同じ意味…。」
ふんと赤司が鼻を鳴らす。
「成程…自分で考えろと…?おもしろい。」
腕を組みながら鹿野を見据える。
暫く沈黙が続き、どちらも全く動かなくなった。
先に沈黙を破ったのは、赤司だった。
「ふむ…」
そう漏らし、駒を手に取る。
そしてパチンと快い音を立てて駒を盤上に置くと、顔を上げた。
「『自分』を知られるのがいやなんだろう…?」
鹿野は一瞬ぽかんと間の抜けた顔をしたが、「ぷっ…」と吹きだして、盛大に笑いだした。
その態度に怒りを覚え、殺気を放つ赤司。額に若干青筋も浮かんでいる。
それに気付き、手を顔の前でブンブン振る鹿野
「あ、ごめんごめん!!怒んないで!ただ、答えが…」
「答えがなんだ。」
ムスリと不機嫌そうな顔で問いかける
鹿野は額に手をあて、焦った表情で苦笑する。
「大正解…だったから…焦りすぎて…笑っちゃった…」
赤司は意外そうな表情を浮かべた。
「…これだから…。あぁ、もう。聡明だねぇ赤司君は…」
気の抜けた声を漏らし、机をバンバンと叩く。
赤司はクスリと笑い、上唇をほんの少し浮かす。
「そうか…。まさか一発で当たるとは…な。」
しかし鹿野は寝起きの猫のような顔で「うそだー」っと言った。
それをきいて、更におかしそうに笑う赤司。
「あぁ…。悪いな。一芝居うたせてもらった。質問したときから気付いていたよ。」
鹿野はやっぱり!!とでも言いたげな顔でぶすむくれた。
「まぁ…ばれちゃってたんなら…咄してもいいか。」
パチン…
「そう。僕は『自分』を知られるのが嫌なんだ。
なんでかは…よくわかんない。小さいころからそうだったからね。まぁ…要するに嘘つきなんだよ。他人を欺く『道化師』とでもいえばいいかな?ほら、道化師は素顔を知られたらいけないでしょ?
…まぁ僕の場合は『知られないようにしている』んだけどね。
兎に角僕は嘘つき。いつも笑顔を振りまいてるのは、無表情でつまらない本心を隠すため。…ていうのは半分の理由。もう半分は…」
しかしその先は赤司が答えた。
「『必要とされたいから』…か?」
「まったく…なんでもお見通しのようだね。」
鹿野は肩をすくめた。
「その通りだよ。僕は皆に必要とされたい。必要とされなくなったら…それはもう『不良品』。唯のゴミだよ。
だから僕はいつも笑顔でいるの。不良品になんて…なりたくない。」
静寂。
しかし黙って聞いていた赤司が、駒をうち、一言呟いた。
「王手」
「あ…」
途端ふ抜けた声を出す鹿野。
赤司は腕組みをしながら立ち上がる。
「……要するに君は憶病なんだな。」
「な…!?」
思わぬ言葉に目をぱちくりさせる鹿野。
構わず赤司は続ける。
「そうだろう?自分を知られるのが怖い…必要とされなくなるのが怖い…なんて、唯の臆病者の戯言だ。」
「な…あんたになにが…!」
「わからないよ。お前の過去など知る由もない。だがな、ゴミと化した不良品を、そのまま土に還すととるか、再生…リサイクルさせるととるかは、鹿野修哉、お前が決めることだ。」
「…!!!」
「臆病者は不良品にならぬよう必死と偽るが、臆病者となるのが嫌なら、一度不良品になってもいいと思うぞ。
…まあ…それは僕が言えたことではないがな…」
赤司はそう言い残すと、ガラリと扉を開け、空間の外へと出て行った。
机にはすでに終局した将棋の試合の盤面と駒、椅子には呆けた鹿野が一人すわっているだけだった。
鹿野はしばらく呆けた後、ずるずると机にのびた。
そして、潤んだ瞳を誤魔化すように苦笑しながら呟いた。
「………参りました…」
終焉…✾