泥棒と警備員Ⅴ
こんにちはー
更新が亀並み…いや、亀よりおそいっすね…ごめんなさい。
では本編どうぞー
「泥棒と警備員Ⅴ」
それからというもの、僕は傭兵の仕事を辞め、独裁国家が侵略して分捕ってきたものをもとの持ち主に返す、国家からすれば「泥棒」という存在になった。返すものは、高価な宝石や王冠など。ものを返すたび、国家がどれだけたくさんのものを盗み、どれだけ卑劣なことをしてきたのかがわかった。
国家に見つかればただごとではないのだが、これが僕にできる唯一の偽善だった。
人は、守りたいものができると、こんなにもわかりやすく行動に出るのか…
そんなことを考えながら、今日の仕事を終え、人混みを避けながら家路を急いだ。
「今日の夕飯は…少しばかり奮発してしまった…。ま、たまにはいいか」
買い物袋を抱え、鼻歌交じりに歩く。
少し浮かれてすらいたかもしれない。
____だから、気づけなかったのだ。
そんな僕を観察している、人間の存在に…。
「よお『元』39番。随分楽しそうじゃねえか」
「!?」
突如発せられた聞き覚えのある声に驚き、振り返る。
そこには、気色の悪い笑みをうかべた25番が、壁にもたれかかった体勢で立っていた。
「てめえ…なに尾けてきてんだよこのストーカー野郎!!」
「ストーカーって…おいおい、大げさじゃねえの?」
「っるせえ!気持ちわりいんだよクソが。…なんのつもりだ?」
「んー?なんのつもりってそりゃ、急に傭兵やめちまったから、なんでかな~って気になってたところでお前を見つけたから…観察しようと思っただけだよ」
「…ざけんなよ!…クズが考えることはやっぱりクズだな。」
「なんでだよ~あのクソみたいな職業の中で、周りの奴等の観察すんのが唯一の楽しみなんだからよ~。」
「…もう仕事を辞めた僕を観察する必要はねえだろ…」
「女の子がそんな乱暴な口きくなよ~。あ、そうそう、で、なんでお前そんなに楽しそうにしてたんだよ。急に仕事辞めたことと関係あんのか?」
「別に…そんなことねえよ。くだらないお前の勘違いに付き合ってられるほど暇じゃねえんだよ。さっさと帰りやがれ。」
そう言ってまた歩き出そうと前を向いたが…
「嘘つくなよ」
立ち去ろうとした瞬間、髪の毛を引っ張られた。
視界がガクンとぶれ、鈍い痛みが走る。
相当強く引っ張られたようで、数本抜けた感覚があった。
「いっ…てえな何すんだてめえ!!ぶっ殺されてえのか!!」
「だからあ…そんな口きくなよ~仮にも女だろ?
…なあなあ、そんなに食い物買って、どうすんだ?お前ってそんなに1人で食うやつじゃないだろ?」
「はっ…!?」
たしかに、僕が抱えている買い物袋の中の食材は、僕1人では多い量だ。
だが、必死に取り繕う。
「ばーか、あれだ…買い溜めだよ…!」
「…顔色かわったな。図星か?あ、まさか男でもできたのか!?ひゅう~やるじゃねえか。男みたいなお前でもそばにいてくれるやつができたのかよ~」
馴れ馴れしく僕の肩に回している腕を、思いっきり払いのけた。
___まずい。
これ以上こいつと一緒にいたら…
僕はこいつを殺してしまう…。
いや、いっそ殺してしまおうか。
そうおもいたち、懐に潜ませたナイフに手をかけようとした。
しかし、脳裏にあの3人の顔がよぎり、なんとか拳を握り、踏みとどまる。
その代わりに、思いっきり睨みつけた。
「…くたばれ…糞野郎…」
そう言い残すと、僕はその場を立ち去った。
残された25番は、1人かすかにふるえていた。
そのふるえは、39番から発せられた凄まじい殺気に恐怖を覚えたことからきているが、その中に、喜びも混じっていた。
「こえ…つか、そんなにキレるってことは、やばいことでもやってんのか…?ハハ…観察継続だな。また他人の弱みを握れるチャンスだ…」
25番は、やはり気味悪く口角を吊り上げ、微笑んでいた。
「はあ…っはあ…」
全速力で25番から逃げ、先ほどとは違う裏道に座り込む。
「くそ…あの道化師野郎…!!もうあいつとは絶対遭遇したくない…な…」
先ほどまでの心の中の苛々した感情は、少し弱まっていった。
「…つかそれにしても、なんで前からあいつは僕につきまとうんだ…まあ、誰でもいいのかもな…本当にクズな奴。」
息を整えて25番に対する悪態をぶつぶつと呟いていると、不意に、少し離れた向かいの壁に、1枚の紙が乱雑に貼られているのが目に入った。
「…ん?なんだ…?」
貼り紙など、普段みても大したリアクションはとらないが、その日は何故か妙に気になり、その貼り紙をのぞきこんだ。
_____このとき、僕がこの貼り紙を見ていなければ…僕はどうなっていただろうか
貼られていたのは、指名手配書だった。
指名手配犯の写真のしたには、貧乏の僕でなくとも、とんでもない額だとわかる懸賞金が書かれていた。
でかでかとその紙に貼られた写真の人物は…
鋭い三白眼、適当に二つに結った長髪、国家に従う傭兵のしるしである、重そうな軍服についた星のピン…
まぎれもない、「僕」だった…____
「ぼ…僕が…指名手配犯!?まさか…もうばれたのか!?」
防犯カメラや警備員の目はうまくかいくぐってきたつもりだったのに…!!
もしくは、確証はないが、僕が辞めたすぐ後からものが盗まれるようになったから、と、僕を疑っての行動か…
なんにせよ、これでは街を出歩くことができなくなってしまう。
生活の不自由が確定すると、僕はなんだ腹が立ってきた。
「な…なんだよ、指名手配って…!ふ、ふざけんな!こっちはお前ら国家が盗んだものをもとにもどしてるだけじゃねえか!!そうだ、泥棒はお前らだろうが!!そのくせまるでこっちが悪人みたいに言いやがって…!!」
『ソウダ…悪人ハ、貴様ダ…』
「!?」
突如、背後から、黒く禍々しい気配がのしかかってきた。
人間の声とはとても思えないような言葉の羅列に、思わず息をのむ。
『貴様ハ、一体何ガシタインダ…?今マデシテキタコトヲ悔イテ、神ニ赦シヲ乞ウテイルノカ…?自身ガヤッテキタコトノ、罪滅ボシヲシテイルノカ…?』
心臓が激しく波打っていることがわかっているのに、何故か生きた心地がしない。
呼吸が荒くなっていることがわかっているのに、何故か生きた心地がしない。
気持ちが悪い…
眩暈がしてくる…
足が震える…
…恐ろしくて、振り返ることができない。
だが、不思議なことに、自分の脳内では、言葉を発するものの存在が想像できた。
星のピンがついた黒い布を纏い、鈍く光る大鎌を持った髑髏…
国家の手駒である、恐ろしい亡霊の姿が…。
クツクツ、クツクツと不気味に笑い、
亡霊は、尚も言葉を発し続ける。
『貴様ノ様ナ汚レタ人間ガ善意ヲ装ッテ行動シヨウト、貴様ノ犯シタ罪ガ帳消シニナルワケガ無イ。』
体が硬直し、滴る汗をぬぐうことすらできない。
体温が急速にさがっていく感覚を覚えた。
…以前、傭兵の頃に老父と赤ん坊を助けようとしたのが上司に見つかった時のようだ。
何かをしなくてはいけないのに、何もできない。
亡霊は、続ける。
『ダカラ…』
耳元で、囁かれた。
『ソンナコトヲシテモ無駄ダ』
僕は、なんとか振り返った。
しかしそこにはなにもおらず、暗い裏道が続いているだけだった。
途端に足の力がぬけ、その場にへたり込んだ。
「いま…の、は…何…だ」
_そんなことをしても無駄_
その言葉が、深く僕の心に突き刺さった。
痛いほど激しく打つ心臓を抑える。
荒い呼吸を落ち着かせるために、深い呼吸をゆっくりと繰り返す。
だが、目尻に浮かんだ水滴の存在には気づけなくて、拭うことはできなかった。
Ⅵに続く…