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泥棒と警備員 Ⅰ


【初音ミク GUMI】泥棒と警備員【オリジナル曲】 - YouTube

 

 

 

 

「モルモットと傭兵」の後篇です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泥棒と警備員 Ⅰ」

 

 

 

 

とある日曜の昼下がり

 

 

その日は太陽が雲に隠れた、静かな日曜日だった。

 

 

今はもう廃墟と化してしまった、立派な教会

 

 

そこでは、3人の子供と1人の大人が遊んでいた。

 

 

 

 

 

__神様!今日はなにする?__

 

 

 

 

 

__久しぶりにかくれんぼでもするか…?__

 

 

 

 

__やったあ!やろうやろう!!じゃあ、じゃんけんで鬼決めよう!!__

 

 

 

 

 

__じゃーんけんぽい!!__

 

 

 

 

 

__〇〇の負け!じゃあ三十秒数えてね!!__

 

 

 

 

 

__逃げろ―!!__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__…28、29、30!!もーいーかーい!!__

 

 

 

 

 

__もういーよー!!__

 

 

 

 

 

 

__いーよー!!__

 

 

 

 

 

__…神様…?__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、私たちの前から神様は消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【2年前】

 

 

 

 

 

 

 

「傭兵番号39番!!早くしろ!!!」

 

 

「…ちっ」

 

 

 

偉そうな上司に急かされ、舌打ちをかましながらも硬いブーツのベルトを締める。

 

 

戦場にでていないお前らにはわからないだろうが、こっちは毎日毎日銃だ爆弾だ使って必死に戦ってるんだからな。

お陰でこっちは全身筋肉痛で骨すら軋んでる。

 

 

 

…まあ、身分の低い僕が生きていくためには、傭兵としての仕事をして報酬をもらうほかないのだが…。

 

 

 

 

始めたばかりのころは、金さえもらえればどんな仕事でもいいと思っていた。

 

 

…だが、最近ふと思う。

 

 

 

 

…本当にこれでいいのか…?

 

 

 

 

 

罪のない人々機関銃で撃ち

 

その人々の街に爆弾を置き

 

 

 

 

 

…全てを奪い尽くす…

 

 

だが、奪っても、それを手にすることはできなかった。

 

 

幸せも、富みも、家族も…

 

 

それどころか、どんどん人として大切な何かを失っていく気がする。

 

 

 

「…失ったもののほうが多いじゃあないか…」

 

 

 

機関銃をガシャリと抱え、ため息をつきながらも重い腰を上げる。

 

 

 

 

_今日も、全てを壊しに行くために_

 

 

 

 

先程きいた話だと、僕は今日、人間兵器を造ろうと人体実験を行っている研究所の破壊をしなくてはいけないらしい。

 

 

 

まだ完成していないらしいが、人間兵器を造ろうとしているんだから、すでに脅威と化しているかもしれない。

 

今日の仕事は危険だ。

 

油断すれば死ぬかもしれない。

 

いつも以上に気を引き締めよう…

 

 

 

 

 

僕は、今日あんなことがあるとも知らずに、いつも通り帽子を目深にかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

_研究所付近_

 

 

 

 

 

 

 

「はあ…はあ…くそッ。なんだってこんな遠いところまであるかなきゃいけないんだよ…!」

 

 

 

 

下された命は、歩いて研究所まで行き、研究所を爆破し壊せ。というものだった。

 

 

 

最初は、なんだ、歩ける距離にあるのかと思っていたが…

 

 

もうかれこれ3時間は歩きっぱなしだ。

特に飲料も渡されず、喉は乾ききっているし、重い大量の銃火器を抱え歩き続けると、いくら訓練しているとはいえ棒の如き細い僕の非力な足は、ミシミシと悲鳴をあげる。

 

それに、重いのは荷物だけではない。

 

 

気分は、荷物以上に重かった。

 

研究所を破壊するという事は、実験体や研究員も吹き飛ばすことになる。

それが嫌で仕方なかった。

 

 

 

…昔の僕ならこんな気持ちになるなんて、ありえなかっただろうな。

 

昔の僕は飢えに飢えていて、とにかく全てを欲していた。

 

金も、食糧も、安らぎも、なにもかも。

 

だから、それが与えられるならどんな下劣なこともできた。

…だが今の僕はどうだ。

 

今は報酬を与えられ、それで食糧を得ても、全く心は潤わなくなった。

 

…まあ、これはある意味、僕への罰なのかもしれないな…

 

 

 

 

「畜生…あいつら覚えてろよ…」

 

 

上司の悪口を吐きながら背中を丸め、手渡された地図を握りしめ歩く。

 

 

すると、前方にやたら大きな、白い建物が見えてきた。

 

「あれだな…」

 

 

 

窓が一つもないので、大きな箱にも見えた。

 

 

 

「悪ィな…壊させてもらうぞ」

 

 

 

 

そう言い切るか言い切らないかのタイミングで、僕は颯爽と走りだした。

 

 

 

 

もう、はやく終わらせて帰ろう。

 

長居は嫌いなんだ。

…さまざまなことを経験してしまうから。

 

一番嫌だったのは…あの日だな。

 

 

 

 

 

今から丁度4ヵ月くらい前の仕事。

朝から豪雨が降りしきる、寒い冬の日だった。

 

 

 

其の日は主に、民家を破壊しに行っていた。

 

 

「民家を破壊し、住民も殺せ。逃げた住民は追わなくてよい。とにかく今日の目的は建物破壊だからな。…では、解散!!」

 

 

 

あの頃はまだ僕は人を殺すこと、ものを壊すことに特に抵抗はなかったので、無表情のまま準備を始めた。

 

すると、隣にいた気の弱そうな男の二人組が、こそこそと話し合いはじめた。

 

「…いやだな…そんな、幸せを壊すようなこと…」

「相手国の軍人を殺すだけでもつらかったのに…」

「どこかに隠れて居ようぜ」

「そうだな!それがいい!」

 

 

周りには一切聞こえていないようで、皆特に気にしていなかったが、真隣にいた僕には、はっきりと聞こえてきた。

 

朝から雨が降っており、何かと気分の晴れなかった僕は、その二人の会話を聞いていると、イライラしてきた。

 

 

 

善人ぶってんじゃねえよ。

そんなんで僕と同じ額の報酬貰いやがったらぶっ殺す。

 

 

するといい案が頭に浮かんできた。

 

だから、そっと二人組に囁いた。

 

 

 

「…その計画、僕が上にバラしたら…お前等どーなるんだろうな。そうしたら僕的には、お前等二人が抜けるお陰で報酬が少しでも増えるから都合がいいんだけどな。」

 

 

生まれつきの三白眼をいっそう細め、凶悪な顔でほくそ笑んだ。

 

 

二人組の男は、ぎょっとして僕を見たあと、ぐっと喉をつまらせ、泣きそうな顔をして走り去っていった。

 

 

 

ふん、所詮はそんなもんだろ。

 

他人の幸せだなんだを語るくせに、人間は結局自分が大事なんだよ。

 

興味を失い、僕はさっさと目的地へ出発した。

 

 

 

 

 

_街_

 

 

 

 

バアアアアアアアアン!!!!!

 

ドガガガガガガガッ

 

パーーーーーーーーン!!パーーーーン!!

 

 

 

 

耳障りなほど大きな爆音と響く阿鼻叫喚。

 

 

先程から、爆音に負けぬような鳴き声もそこらでちらほらと聞こえてくる。

 

泣いているのは子供だけではない。明らかに大人の声も聞こえてくる。

 

 

 

しかし、だからといって僕が手を休めることはなかった。

 

平然と涼しい顔で爆弾を仕掛け、スイッチを押して爆破を行う。

稀に手榴弾も使った。

 

 

途端につい先刻までは立派な建物だったものが、轟音とともにゴミと化す。

 

 

そして、ある一軒の古ぼけた小さな家にも、爆弾を仕掛ける。

 

その直後に、僕の目の前の扉が開き、赤ん坊を抱えた老父が出てきた。

 

「ひっ…ひいいいいい!!!!!」

 

 

老父は目を見らき、赤ん坊を僕から護るような姿勢でかがみこむ。

 

僕は爆弾を仕掛ける手を止め、老父と赤ん坊をすっと見据えた。

 

「た…たのむ!!この子の命だけはっ…!!!!」

 

涙を流し、地面に頭を擦りつけ、必死に懇願する老父。

傍らの赤ん坊が、小さいながらも状況を察したようにわあわあと豪快に泣きだす。

 

 

「………」

 

 

僕は無言のまま背中にかけていた機関銃を構える。

 

だが、不思議な事に手が震えた。

 

な…なぜだ…撃てない…

 

 

僕は今まで経験したことのないような感覚に襲われていた。

 

僕の倍は生きたような老父が、ちっぽけな赤ん坊のために、こんな小娘相手に土下座しているという事実に、なんだかとてつもない恐怖感を覚えた。

 

 

 

何だこれは…

 

 

 

 

 

_しかし僕は、その感情が、「人を殺すこと、ものを壊すことへの抵抗」というものだということに気づいていなかった_

 

 

 

 

だが、本能は理解したようで、普段の僕からは考えられないような言葉が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、いつまでも震えている老父から銃口をそらし、下を向いてぼそりと言った。

 

 

 

「…嫌いなんだよ…自分の命を差し出してまで他人を守ろうとする奴が…」

 

 

「え…」

 

老父が怪訝そうな顔で僕を見つめる。

僕は決心して呟いた。

 

 

 

「…だから…そんな奴をいつまでも見たくないから…さっさとその五月蠅い赤ん坊連れてどっか行きな。」

 

 

 

…なんだこの無愛想っぷりは…

自分でも自身の愛想のなさに愕然としてしまった。

 

 

しばらく老父は、僕の言っていることが理解できなかったようで、ぽかん…と呆けていた。

 

そのことが無性に恥ずかしくなり、機関銃を振り回しながら怒鳴った

 

「~~~っああもう!!逃がしてやるっつってんだよ!!さっさと行け!!行かねえと撃つぞ!!!」

 

 

そう言うと、老父は一層目に涙を溜め、赤ん坊を抱え「有難うございます!!!」と頭を下げ立ちあがった。

 

 

…なんでこんなことをしているんだ僕は。

 

これじゃあ朝の二人組と同じじゃないか。

 

 

深いため息をつき、何気なく老父と赤ん坊を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

__その直後だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴様、何をしている」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から声がかかり、ものすごい速さで振り返る。

 

 

振り返った先には、上司が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 

 

「貴様は…傭兵番号39番か?なにをしている。さっさとそいつらを撃て。」

 

 

 

直接心臓をつかまれたような感覚に陥った。

 

目の前がスパークし、思考回路が錆びたブリキのような鈍い勢いになり、何の役にも立たなくなる。

 

 

「がっ…あ、はっ…」

 

 

ぶるぶると小さく震えると、至る所から湧き出てきた冷や汗が弾かれる。

 

老父は、先程までの嬉しそうな表情が消え去り、最初に僕を見つけた時のような表情に戻っていた。

 

 

その様子をみて、上司は首を傾げる。

 

 

 

「おい、39番、何をしているんだ?さっさと撃て。…まさか、こいつ等に情が湧いたとでも言うのか?」

 

 

その言葉が僕に突き刺さり、さらに僕を追い詰める。

 

 

情が…湧いた?

 

そうか、僕は、こいつらに情が湧いてしまったのか…

 

 

 

 

 

 

__ムリダ ウテナイ__

 

 

 

 

 

「ま……まさか。…こ、この僕が情…なんて……」

 

 

 

真っ青な顔でこんなセリフを言ったところで、だれも納得しないだろう。

 

 

そこで上司は、気持ち悪い笑みを浮かべ、僕の方に手を掛けて言う。

 

 

「そうだよなあ?なんせお前は、『冷徹非道の39番』だもんな。お前が一切手加減しないおかげで、こっちも仕事がはかどるんだ。そんなお前に限って、他人に情がわくなんてありえないよな…?」

 

 

いつもならなんとも思わない僕の異名も、今の僕にはとても重く聞こえ、さらに心臓が締め付けられる。

 

 

 

 

__ヤメロ コレイジョウハムリダ__

 

 

 

 

「…そうですよ…僕は…撃てます……とも」

 

 

 

 

 

__ウソダ ウソヲツクナ__

 

 

 

 

 

 

「そうか、なら撃ってみよ。」

 

 

 

 

 

__イヤダ__

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャンと機関銃を構え、トリガーに指をかける。

 

 

 

 

 

 

__ダメダ ヤメロ__

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__   モ   ウ  イ  ヤ  ダ   __

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ザァザァと降りしきる雨の音しか聞こえなくなった街

 

 

 

辺りは漆黒の闇に包まれ、夜が来たことを明確にする

 

 

 

その中に、僕は一人立ち尽くしていた

 

 

 

長い髪も、重い服も、俯いた顔も、すっかり濡れて水浸しになってしまった

 

 

 

目の前には、赤い水たまりに横たわる大きな塊と小さな塊

 

 

 

無論、僕が撃った老父と赤ん坊である

 

 

 

…きっと昨日までは、二人で笑っていたはずなのに

 

 

 

僕の目元から水が流れてきたが、それが涙なのか雨なのか、もう僕には判別することができなかった

 

 

 

身体は冷え切り、どこにも力が入らず、動かなかった

 

 

 

 

皮肉な事に、僕は彼等を殺したことで、自ら「冷徹非道」を脱ぎ捨て、人間らしさを取り戻すことになってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…寒い…」

 

 

 

 

 

       

 

 

 

        ______寒い寒い、冬の日の出来事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…チッ…思い出しちまった」

 

 

 

 

あの日から僕は傭兵の仕事が嫌になった。

 

最近は、なにか別のいい仕事はないものかと探し始めている。

…まあ、仕事が見つかったところで、傭兵をやめられるかわからないんだけどな。

 

 

 

と、そうこう考えながら作業をしているうちに、生命装置を発見した。

 

 

「あった…えーっと。これを壊せばとりあえず…」

 

 

 

小型の爆弾を仕掛け、ため息をついてから、スイッチを押す。

 

 

 

 

ボンッ!!と音をたて、木端微塵になる装置。

 

 

 

 

 

…こんな小さな爆発すら嫌になるなんて…

 

 

 

本日何回目かもわからない舌打ちをし、のろのろと立ち上がる。

 

 

「…やるか」

 

 

 

そう呟き、あたりに爆弾をいくつも仕掛けていく。

 

 

 

そして…一気にスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

鼓膜が破れそうな音が空へと吸い込まれていく。

 

白かった壁は黒ずみ、至る所に亀裂が入る。

 

 

「…とにかく、中に侵入して、データからなにから消し去らないと…」

 

 

 

痛む頭を押さえながら煙幕の中を横切り、特に亀裂の多く入っている壁を見つけ、機関銃を構える。

 

 

「すまない」

 

 

 

 

どががががががッ!!ガガガッ!!

 

 

 

そこに何発も弾を撃ち込み、壁を脆くする。

 

 

「っげほ!!げっほげっほ!!!かはっ…」

 

煙が目と鼻と口を攻撃するため、涙と咳が漏れ出る。

 

 

 

 

最後に、機関銃を撃つのをやめ、手に持ったまま、足を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガアアアアアアアアン!!!

 

 

唯でさえ硬いブーツなので、思いっきり蹴り飛ばした結果、壁はガラガラと崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

暫くは煙のせいでなにも見えなかったが、だんだん時間がたつと、中が見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

__そこには、目を疑うような光景が広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

大きな部屋に、いくつもあるこれまた大きな機械。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、注目したのはそこではない。

 

 

 

 

 

 

「なんで…なんでこんなところに…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の目の前には、明らかに良い扱いをされていないような…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

汚れた服を纏った、3人の小さな「子供」が縮こまっていた…

 

 

 

 

 

 

そして、真中にいた子供が、僕をしっかりと見据え、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神…様…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く