モルモットと傭兵
【GUMI】モルモットと傭兵【オリジナル曲】 - YouTube
くるりんご様の素晴らしい楽曲、「モルモットと傭兵」と「泥棒と警備員」の解釈小説を書くことにいたしました。
あ、勿論これが終わればちゃんとFLOWERのほうも連載するつもりでございますよ!?
では、今回は前篇の「モルモットと傭兵」を、どうぞご覧ください。
「モルモットと傭兵」
「っげほ!!げほっ、ううええ…」
いつものように、薬の副作用で嘔吐する。
今日はJE4だ…。
「JE4、大丈夫?」
「うっ…けほっ!う、うん…大丈夫…」
「苦しそう…」
「も、もう慣れたからへいきだよ…」
ここは、実験所。
他国との戦争に打ち勝つため、人間を使った兵器を作りだそうとしている。
私たち…「GU3」と「ME1」と「JE4」の三人は、この実験所の実験台。
実験は酷いものばかり。
さらに副作用もつらい…
「…ひどいわよね…私たちがなにをしたっていうの…」
「仕方ないよ…。大人の都合ってやつだよ」
ME1と話していると、ふいに扉があいた。
研究者だ…
「ME1、来い。実験だ。」
「や…もう今日はやめてよ…」
「うるさい黙れ。いいからついて来い。」
「やだっ…やめてよお!!身体いたいの!!」
「ちっ…うるさいガキだな。いいから来い!!」
「やだああああ!!」
ME1は、包帯の巻かれていない方の目から涙を流しながら、扉の向こうへと引きずられていった。
「……」
もう見慣れた光景だった。
でもわたしにはどうすることもできない。
大人に抗う事なんて、実験に使われるだけのモルモットのような私たちにはできない。
「はあ…はっ…」
部屋の隅から、息を切らしたJE4がふらふらと歩いてきた。
「JE4、大丈夫?」
「うん大丈夫だよ…あれ?ME1は?」
「…実験室につれていかれちゃった」
「…そっか。
GU3、膝貸してくれない?吐きつかれちゃって…」
「いいよ。眠かったらねてもいいし。」
JE4はよろよろと私の膝に頭をのせた。
そして五分もしないうちにすやすやと寝息をたて、眠りについた。
JE4の頭に手を乗せ、ふわふわと撫でる。
「…JE4は眠ったらいつも元気になるからよかった…。ME1は…大丈夫かなぁ…」
ため息とともにぼそりと呟いた。
***
「に…苦い…」
毎日のようにだされる「クッキー」と称された実験用の苦いサプリメント。
JE4はこれにいつまでたっても慣れないようだった。
とはいえ、私も食べながら顔を顰める。ME1もだ。
「…甘いクッキーが食べてみたいな…」
「どうせならケーキも食べたいなー」
「そうだね…」
三人で窓の外を眺めながらクッキーをかじる。
「でも、わたしはクッキーよりも、あの丘を越えて…ふわふわの羊と一緒に踊りたいな!」
「あ、わたしもわたしも!」
「きっと外は平和なんだろうな…だって、いつもお空は青いし、おひさまは明るいし!」
「GU3も、そう思うよね!」
…私は、そっと頷いた。
「あれは外の景色なんかじゃなくて、壁にかかれた唯の絵だよ」
…なんて言えないから。
そのとき、不意に水槽が目に入った。
そこには、実験で使われ、尻尾が切れ死んでしまった金魚が沈んでいた。
私は立ち上がり、金魚を水槽からすくった。
…私も…こんなふうに死んじゃうまで、この実験所の淀んだ空気を吸って吐いていくんだな…
悟られないように項垂れ、ため息をひとつ零した。
「GU3!そろそろ寝よ~」
「あ、うん!」
金魚をゆっくりと机に置き、二人のところへ走っていった。
次の日も実験は行われる。
そして当然のように副作用も襲ってくる。
「あっ…はあっはあっ…」
副作用によってがたがたと震えるJE4に毛布をかぶせ、いつものように頭を撫でる。
すると、向こうでは嫌がるME1にむりやり注射をうとうとしている研究者がいた。
「や、やだ!副作用こわい!!注射もきらい!!」
「暴れるなME1!!針が刺さらない!!」
私は走っていき、ME1をかばうように研究者の前に立ちはだかった。
「ME1は昨日も実験で酷い目にあわされたの。注射をうつなら私にして。」
「GU3!?だ、だめだよ…!」
「ふん。誰にうとうが効果は同じだからな。騒がれるくらいならお前にうつ。」
「別にいいよ。」
「……ごめんねGU3…」
「大丈夫。心配しないで!」
私がそういって腕を出すと、研究者はなんの労りもなく腕をつかみ上げ、躊躇なく針をツプリと突き刺した。
「うっ…」
少々の痛みがあったが、副作用よりはまだましだ。
なによりME1は注射が嫌いだ。そんなME1にこんな痛みを味あわせたくない。
針を抜くと研究者は私を突き放した。
「結果が出るまでおとなしくしてろよ。」
そう言い放つと扉開けて出て行った。
「GU3、大丈夫!?ごめんね私が注射きらいなせいで…」
「大丈夫。絵ME1は悪くないよ。謝らないで。」
「で、でも…」
「本当に大丈夫!それより、おとなしくしてろって言われたから…JE4も寝てるし、一緒に本読まない?」
「あ、うん!!読む!」
「それじゃあ、ME1の好きな本持ってきて。」
「わかったー!」
パタパタとME1が散らばっているほんの山にかけていく。
私は、ME1に気づかれないよう、痛む右腕を少しだけさすった。
カチ…カチ…カチ…
鳴りやむことのない鳩時計の音が、静まり返った閉塞空間に木霊している。
「ん…」
眠っていたJE4がむくりと起き上がる。
「あ、JE4、おはよう!!」
「身体は大丈夫?」
ME1が読んでいた本から顔をあげて嬉しそうに微笑む。
JE4は目をこすりながら笑顔をみせる。
「うん!寝たら元気になったよ!」
「そっか!よかった~」
「それなら、JE4もいっしょに本読む?」
私はME1と一緒に読んでいた本を掲げた。
「あ!私の好きな本だあ!!読む読む~!」
JE4は顔を輝かせ駆け寄ってきた。
その言葉にME1も顔を輝かせる。
「だよね!!私もこのお話大好き!」
「特に、『するとその時、神様が私たちを助けに来てくれました。』っていうところが好き!」
「おんなじだあ!」
きゃっきゃと盛り上がる二人を私は静かに見ていた。
「…いつか、この絵本みたいに、神様が私たちを外に出してくれるよね!!」
ME1が私に微笑みかける。
…私は、そっと微笑み返した。
「私たちは人間のように扱われない唯の実験体だから無理だよ」
…なんて言えないから。
本を読み進めていくと、ふいに鼻の奥に違和感を感じた。
「…ん?」
なにかと思い鼻に手を当て、ふっと息を強く吹くと、赤い液体が大量に放出された。
「きゃあああ!!GU3大丈夫!?」
「…あ」
それは紛れもなく、副作用による鼻血だった。
鼻血はとどまることなく、ひっきりなしに鼻からボタボタと流れ落ちる。
鼻から口、口から首、首から鎖骨を伝い、服を汚していく。
「てぃ、ティッシュティッシュ!!」
「血がとまらないよお!」
鼻血をだしている私よりも二人の方が慌てていた。
暫く鼻にティッシュをあてていると鼻血は大分おさまってきた。
「よ、よかった…ああびっくりした。」
JE4は安堵するが、ME1はふるふると小刻みに震えながら顔を俯かせている。
「…ME1、どうしたの?どっか痛い?」
私が声をかけると、ME1は勢いよく顔を上げ、大きな粒の涙をこぼし始めた。
「ごめんね、ごめんねええGU3!!私が注射嫌だっていったから、かわりにGU3が痛い思いして、副作用まで…!!全部、ぜんぶわたじのぜいぃ~~!!わああああああッ」
違う、ME1のせいなんかじゃない。
鼻血がでたのは副作用のせい。副作用が起きたのは注射の薬のせい。薬をうったのは研究者。研究者が薬をうったのは実験をするため。実験をするのは戦争のため…
だから、全部戦争が悪いの。ME1は、なんにも悪くないの。
そう声をかけたかった。
でも、それを言えば、ME1はもっと泣いてしまう気がして、何も言えなくなってしまった。
代わりに私は立ち上がり、血だらけになった服を掲げた。
「み…みて!血が広がって、お花の模様みたいになってる!!」
「…え」
ぎこちなくなってしまったが、なんとか笑顔を浮かべる。
しかしJE4もME1もぽかんとした顔で口を半開きにしている。
し…しまった。
だめかと思いかけた其の時、JE4とME1が口を動かした。
「ほ…ほんとだ…凄い!」
きらきらと目を輝かせ、血でできた花で埋め尽くされた汚い服を見つめた。
その様子をみて、ホッとため息をつく。
よ、よかった…。
胸をなでおろしていると、ふと視線を感じた。
それはJE4とME1の視線ではなく、上の方からのものだった。
振り返り上を見上げると、ガラス越しの別世界から研究者たちが、蔑んだ目をして、私たち三人を見下ろしていた。
汚いものでもみるような、軽蔑的な視線がいくつもいくつも降ってきた。
…わかってるよ。
私たちはあなたたちからしたら唯の実験道具。
雑な扱いをうける実験用モルモットと同じ。
…けれど、この二人の心ほど、綺麗なものはないの。
それはもちろん、あなたたちなんかよりも。
だから、お願い。二人にそんな目を向けないで。
向けられるのは、私一人で十分だから…。
***
其の日の朝はいつも通り訪れた。
いつも通り三人で遊んでいると実験に使われ、副作用に苦しむ。
そんな、いつも通りの日常。
けれど、事は突然起こった。
バンッ!!!!
大きな音がして、この施設の生命装置が全て停止した。
途端に真っ暗になる部屋。
「きゃあ!!なに!?なになに!?」
「やだああこわいよおお!!」
二人は大きな声を上げて必死に私にしがみついた。
私は声を上げることはせず、状況を察知するため、暗闇の中でじっと目を凝らした。
なにが起きているの…?
すると、ガラス越しでも聞こえるくらい大きな声が聞こえてきた。
「敵国の軍人が攻めてきたぞ!!!!」
「むこうにとって有利な情報はすべて持ち去るんだ!!持ち出せないものは削除しろ!!」
「早く逃げ…__」
バン!!バンバンバン!!!バンバン!!!!!
その言葉を遮るように、何発もの銃声が響く。
壁に微小の穴があき始めた。
JE4とME1はさらに大きな声をあげた。
そしてついに…
どおおおおおおおおおおんッ!!!!!!
凄まじい轟音が鳴り響き、がらがらと壁が崩れた。
穴のあいた壁から、火薬の匂いと、光が入ってきた。
…いいの…?
研究所の外の空気を吸ってもいいの…?
レーザー線じゃない、日の光を浴びちゃってもいいの…?
崩れた壁の前に、青空を背にしてたっている人影があった。
その人物は、重そうな軍服を着て、長い髪の毛を風に靡かせている。
いつの間にかJE4とME1は泣きやんでおり、目の前の人物を見つめていた。
私は、JE4とME1に埋もれながら、呟いた。
「神…様…」
「泥棒と警備員」に続く