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どうぞゆっくりしていってください

泥棒と警備員 Ⅱ

Ⅰの続編です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泥棒と警備員 Ⅱ」

 

 

 

 

「…」

 

 

 

暫くの間、目を疑う光景に唖然とし、身体が固まってしまった。

 

 

それは向こうも同じだったようで、三人で目を瞬かせている。

 

 

 

と…とにかくなにか言わなくては…。

 

 

そして、こいつ等は、何故僕の事を『神様』などとよんだのだろうか。

 

まあ…それも含めとにかく訊きたいことは山ほどある。

とりあえず、連れ出すか。

 

 

「えーっと…」

 

たったそう一言発しただけだった。

 

しかし、両端の包帯少女と黒髪少女がそれに怯え、真ん中の少女にしがみついて小さい悲鳴を上げた。

 

 

「なっ…」

 

 

なんだこいつらは…。

野獣を前にしたモルモットか。

 

 

しかしここでもたもたしては、あの悪夢のような日のようになりかねない。

だが、怯えられたままでは連れ出すのは…

 

しかたない。

 

 

 

「…逃げるぞ!!!」

 

 

 

そういって三人の手をつかみ上げ、強制的に引っ張りだした。

すると、案外あっさりとついてきた(顔面蒼白だったが…)。

 

だが、ついてきたというよりは、抵抗する力がないのでなすがままにされている、というように見え、なんだか悪いことをした気になった。

 

…でもだったら、あの状況で他にどうやってこいつ等連れ出せばよかったんだ。

そもそも、連れ出してよかったのか?

おそらく、こいつ等が「人間兵器」の実験台…。

 

 

僕は、今日が僕の命日にならないことを祈りながら三人を連れて走っていった。

 

 

 

 

 

 

たどりついたのは、廃墟となった立派な教会。

 

 

「ここまでくれば大丈夫…だよな。」

 

 

滴る汗に不快感を覚えながらも、拭く間もないまま、激しく酸素と二酸化炭素の交換を行う。

 

三人もおなじように、膝に手をつきはあはあと息を吐き出す。

 

 

 

「お前たちは…あの施設の実験台で合ってるんだよな?あ…悪い。わけもわからないまま走らせて…」

 

とりあえず謝っておくが、やはり包帯少女と黒髪少女は僕が喋るだけで肩を震わせる。

しかし、ショートカットの少女だけは一度も僕に怯えた目を向けることもなく、落ち着きを払っている。

 

そしてついに、少女の方から口を開いた。

 

「あの…助けてくれてありがとう!」

 

「……へ?」

 

 

まさかお礼を言われるとは思わず、まぬけな声が漏れる。

 

そして、少女の言葉に疑問を覚えた。

 

「助ける…?どういうことだ?」

 

頭に疑問符を浮かべ、首をかしげる。

すると少女は、自分たちがあの研究所でどんな扱いを受けてきたのか、自分たちがどんな存在なのか説明を始めた。

 

…少女の口から語られる事実は、聞いていて決して気持ちのいい話ではなかった。

あまりにも残酷すぎる。そんなつらい日々を、こいつらは何年も我慢して生きてきたのか…。

 

「そう…だったのか。ひどい奴等だな。あの施設の人間は…」

 

そこまで言って、自分も十分ひどい人間なのだと思い出した。

なに言ってやがる。僕にそんなこと言う資格はないだろうが。

 

しかし少女は曖昧に笑って、首を横にふった。

 

「…たしかに、あの人たちはJE4やME1にひどいことした…でも、仕方がなかったんだと思うの。だって、戦争が起きてしまったんだから…」

 

 

…馬鹿じゃないのか?

そんな目にあっておきながら、なんだって自分に危害を加えた人間まで守ろうとする?

 

しかし、心の奥で、じわりとなにかが緩んだ感覚があった。

 

僕はため息をついて3人を見据える。

 

…誰がみても可哀想だと言うこいつらを引き取って面倒をみれば、これまでやってきたことの罪滅ぼしになるのだろうか…

 

「おまえら…名前は?」

「…名前…?私はGU3だよ?」

「違う。本名だ本名。」

「…わからない。本当の名前を知る前にあの施設に閉じ込められたから…」

「なッ…」

 

 

そんなバカな…

名前を忘れたならまだしも…ってあれ…?

 

 

僕の名前…なんだっけ?

 

たしか、傭兵番号39番なんて番号じゃない、きちんとした名前があったはずなんだ。

飲酒で人が変わったようになって暴れるクソみたいな親父から、いつも僕をかばってくれた、優しい母さん。

 

そんな母さんがつけてくれた、僕の、大事な名前…

 

 

 

「…僕も知らない…」

「え…?」

「僕も、名前があったはずだけど、忘れた…」

「神様にも名前はちゃんとあるんだね!」

「……は?神様?」

 

 

そうだった。最初に僕を目にした時もこいつは、僕のことを「神様」といったんだった。

 

「なあ、その神様ってのはなんだ?僕は神様じゃないし、第一神様なんて存在するわけ…」

「そ…そんなことないよ!」

「!」

 

はじめて黒髪の少女がしゃべり、次いで包帯少女も口を開いた。

 

「神様は…いるよ。だって、私たちを助けてくれたあなたが…神様だもん。」

「そうだよ!」

「な…」

 

なんだそれは。

でも、たしかそんな絵本を昔読んだことがあったな。

 

何もしていないのに牢屋に閉じ込められた主人公を、すべてを見ていた神様が救い出してくれる話…

 

母さんにせがんで、小さいころに何度も何度も読んでもらったっけ。

 

こいつらも、その絵本を読んだのだろうか。

 

神様…ね。

そんなもんがいるんだったら、誰も不幸にならなくてすむんじゃないのか?

 

 

「まあいい…。なんとでも呼べ。」

「え…?呼べって…もしかして、これからも一緒にいてくれるの…?」

 

あ、しまった。

くそ、こうなったら…

 

「ぐっ…あ、ああ。仕方ねえだろ。僕が連れてきたんだし…」

 

ただの罪滅ぼしだ。別にお前らのためじゃない。

 

そう言おうとしたが、3人に遮られた。

 

「ほ、ほんとに!?ほんとに、一緒に暮らしてくれるの!?」

「やった!!もうこれで痛いおもいをしなくてすむんだね!」

「ありがとう神様!!」

 

 

…やっぱりこいつらは馬鹿だ。

善意があっての行動じゃないってのに、そんなに顔を紅潮させてわらいやがって…

 

だが、不思議と悪い感じはしなかった。

 

ああ…ばれたら僕はただじゃすまされないだろうな…。

まあいい。その時はその時だ。

今は、どうやってこいつらを匿いながら生活するか考えないとな。

 

 

「…と、話がそれたな。お前らの名前を決めないと。」

「え、神様がつけてくれるの?」

「親がつけてくれた名前があるんだろうけど僕もお前たち自身も知らないし…施設の番号なんかで呼びたくねえから、考えてもいいか?」

「もちろん!」

 

3人とも大きく首を縦に振った。

 

「…まずは、お前から。」

「わーい!最初だー!」

 

僕が指をさしたのは、包帯少女。

 

うーん…しかし、考えるとはいったものの、こいつらはこれからずっとその名前で暮らすわけだし…適当な名前はつけられないな。

 

ふと、3人の胸元についている札が目に入った。

 

この札からとってみるか。

 

えーと、包帯少女は「ME1」…。

 

め…メイ…?メリー…?

 

うーん、悩む。

 

1…って、Iにもみえるな。

 

メアイ…メアイリー

 

…!!

 

 

「『メアリー』…!」

 

咄嗟に叫んでいた。

 

包帯少女一瞬びくっとしたが、すぐに夢見るような瞳になった。

 

「メア…リー…メアリーかあ…!!かわいい!やった!ありがとう神様!!」

「お、おう…」

 

まさかここまで喜んでもらえるとは思っていなかった。

気に入ったようだし、よかった。

 

さて…次は

 

「次はお前な。」

「うん!」

 

黒髪の少女だ。

 

こいつの札は「JE4」…

 

 

じぇ、ジェイ…ジェーン…

 

ああ、ジェシーなんてどうだろう。

…だめだ。なんかしっくりこない…

 

ジェシージェシア、ジェシ…カ…

 

…お!?

 

 

「『ジェシカ』…!お前はジェシカだ。」

 

カチリと音を立てて、なにかがはまった。

 

ジェシカ!ジェシカだってー!!やったあ!神様ありがとう!」

 

 

考えた名前をここまで喜んでくれるのは、悪い気はしなかった。

 

…さて、最後だ。

 

「最後はお前だな。さて…なににするかな。」

「…ほんとにいいの?」

「は?何がだ?」

「私たちを引き取ってくれるだけじゃなくて、素敵な名前まで考えてくれるなんて…」

「今更何言ってやがる。僕はお前らの神様なんだろ?…自分でいうのもあれだけど。だったらそんなことくらい構わねえっての。」

「…!!」

 

やっぱりうれしそうな顔した。

僕は、どーいうことを言えば相手が喜ぶのか考えてから言葉を発する。

卑怯で狡いやり方だな…まあ、それが僕だ。生まれた時から歪んでいた僕の、生き残り方。

それで結構だ。

 

…でも…こいつを前にすると、なんだか申し訳なくなる。

 

どうしてだろう。こいつがあまりにもまっすぐな目をしているからだろうか。

…と、そんな考えにふけっているひまはない。

 

最後にしておいた挙句待たせるのはさすがに申し訳ないからな。

 

 

こいつの札は「GU3」か。

 

 

ぐ…か。…ぐ!?

 

む、難しいな…

 

グレイス…グローリア…

 

だめだ。なんか、こいつっぽくない。

 

数字は…3。

 

グースリー?

 

グーサン…

 

 

どれもこれも気に入らず、頭の中を「ぐ」と「3」が駆け回る。

 

ああ、混乱してきた。

 

3…みっつ…み…

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐ……み……

 

 

 

 

 

「『グミ』」

 

 

 

カチリ

 

 

 

 

 

「グミ…?それがわたしの名前…?」

 

少女がキラキラと目を輝かせる。

 

「ああ。グミ。これがお前の名前だ。…気に入ったか?」

 

グミは数回「グミ…」と呟き、顔を上げて、満面の笑みを浮かべた。

 

「うん、とっても!!」

 

 

 

こうして3人の名前が決定した。

 

ふーと、安心してため息をつく僕を、グミがじっと見つめる。

 

「ん?なんだグミ。」

 

「…私たちは名前をつけてもらったけど…神様は…なんてよべばいい?」

 

そうだ。名前を知らないのは僕も同じだった。

 

「あ、ああ…そうだな。…僕の名前は、お前たちが決めてくれないか?」

 

流石に自分の名前を自分で考えるのは嫌だな。

 

するとメアリーとジェシカは顔を見合わせて、にこりと笑った。

 

 

「神様は、神様だよ!!」

「神様ってよんでもいい?」

 

ほぼ同時に叫んだ。

 

少々面食らったが、まあよしとしよう。

 

 

「神様…か。まさかそんな名前で呼ばれる日が来るなんてな…。ああ、わかった。そう呼んでも構わないさ。」

 

「「はーい!!」」

 

メアリーとジェシカは上機嫌だが、グミが少し困った顔をしている。

 

「ほんとに、神様でいいの?ちゃんとお名前つけなくていいの…?」

 

こいつは心配性だな。

僕は別に構わないぞ。

 

 

「いいさ。そう名づけられたんだったら、もっと神様らしくなれるように僕も努力するさ。」

 

そういうとグミは満足そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

「メアリー、ジェシカ、グミ。これからよろしくな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…僕の罪滅ぼしのための道具として…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅲに続く